「asa1984 Advent Calendar 2024」5日目です。
非技術的な記事が2日続いたので、そろそろ技術の話をします。ですが ネタ切れなので ちょっと趣向を変えて、今日はシンセサイザーの話をします。昨日の恥ずかしい記事のことは忘れてください1。
まず前提として、音に関する基礎知識がある程度必要です。工学系の学校に通っていた人間ならこの辺の内容は大体わかっていると思うので飛ばしてください。
義務教育の教科書には、「音とは波で、音の大きさは振幅、音の高さは周波数で定まる」という説明と共にこんな図が載っています。
これは波と呼ばれるものの中でも最もプリミティブな波で、正弦波またはサイン波と呼ばれています。
しかしここで問題発生。純粋な正弦波は自然界には存在しません。じゃあ俺らが聞いてる音って何?となるわけですが、私たちが聞いている音は複数の異なる振幅・周波数の正弦波が組み合わさってできています。この正弦波の組み合わせが「音色」の正体です。
ここで再び疑問が浮上。異なる周波数の正弦波が合成されているのに、楽器の音階という概念が成り立つのはなぜか?という問いです。
楽器とは、音階に対応する周波数を基本波とした音を出すように調整された装置です。A4(ラの音)は周波数にすると440Hzですが、楽器でA4を鳴らすと440Hzの周波数成分の振幅が一番大きく鳴ります。それに加えて倍音(基本波の整数倍の周波数成分)が同時に鳴っています。
スペクトラムアナライザー(周波数成分を可視化する装置)を使うと、ピアノの倍音成分は綺麗に整数倍になっているように見えるのに対し、ギターの倍音成分はかなりグチャグチャに見えます。打楽器に関しては色んな周波数で音が鳴っていて基本波と言えるものがありません。
楽器職人は、音がより綺麗になるような倍音を発生させるために、楽器の素材や形を日々試行錯誤しています。
「なら周波数の組み合わせを自在に変えられるような装置があれば理想の音が作れるんじゃね!?」という楽器がシンセサイザーです(語弊)
普通の楽器は弦や金属を叩いたり、管に空気を流し込んだりして音を出しますが、シンセサイザーは「波」自体に手を加えます。
「波」という抽象化は非常に便利なもので、音波以外にも様々な物理現象のモデル化に用いられています。ということは、同じ「波」である交流電流を音波に変換できるんじゃね?となって生まれたのがスピーカーです2。
スピーカーは電磁石で鉄心を動かして振動板を叩き、空気を振動させる仕組み自体はシンプルな装置ですが、交流電流の周波数・振幅が空気の振動の周波数・振幅にそのまま対応するので非常に上手く機能します。
ということは、交流電流で任意の波形を作ることさえできれば理想の音を作ることができるわけです。こうして生まれたのがアナログシンセサイザーです。
アナログシンセサイザーは当然アナログ回路で実装されていますが、現代のICチップのように複雑な処理を小型の部品で実現できるわけではないため、色々と制約があります。
任意の周波数の正弦波を合成すれば自由に音を作れるわけですが、発振回路・オシレーターが周波数の数だけ必要になってしまいます。正弦波を足して音を合成する方式は加算合成と呼ばれ、アナログ回路では回路が肥大化し、高コスト化するのであまり主流ではありませんでした。
代わりに減算合成という、あらかじめ倍音成分が含まれている波形を発振するオシレーターを用意しておき、そこからローパスフィルターやハイパスフィルターで倍音成分を減らしていくという方式が主流になりました。矩形波・三角波・ノコギリ波はシンセサイザーの醍醐味という音ですが、これらにフィルターをかけ、フィルターのかけ具合を時間変化させたり、エフェクトをかけたりするとかなり面白い音になるため電子音楽が大流行しました。
時代が進み、ICによるデジタル回路が主流になったことで、シンセサイザーは私たちがよく見るキーボードサイズ以下まで小型化されましたが、アナログ回路で使われているオペアンプなどの部品が電流を歪ませ、音に独特の温かみを生んだりする3ので、現在もアナログシンセサイザーは人気があります。あまりに人気なので、逆にデジタルシンセサイザーや後述のソフトウェアシンセサイザーがアナログシンセサイザーをエミュレートするという面白い状況にもなっています。
DTMが台頭してくるとシンセサイザーも物理的制約を解かれて大きく進化します。オシレーターもフィルターも、CPUが悲鳴を上げない限り好き放題にできるので、サウンド作りの未開領域が開拓され始めます。
ウェーブテーブルシンセサイザーなどはかなり特徴的で、デジタル録音した音声をベースを「ウェーブテーブル」として基本波形に用いることができます4。ただのサンプリングと違ってピッチを変更したりフィルターをかけたり、とにかくシンセサイザーでできるあらゆることを実現できるのでそれはもう大変です。
シンセサイザーだろうけど、減算合成の音とは明らかに違う、というサウンドは大体このウェーブテーブルシンセサイザーで作られています。いわゆるEDMというジャンルの作曲者は大体MASSIVE X, Serum, Vitalといったウェーブテーブルシンセサイザーを持っています。
もちろん、Sylenth1のような王道の減算合成シンセサイザーも非常に人気があります。
エンベロープの話、FM合成シンセサイザー、モジュラーシンセサイザー、シンセサイザー自作等など…シンセサイザーは非常に奥が深いです。実際に触って遊んでみたいという人は、AbletonのLearning Synthsがおすすめです。なんとWeb上で遊べます!
ところで筆者はどれくらいシンセサイザーができるのかというと、アナログシンセサイザーを自作しようとして電源回路を作ったところで挫折しました(完)