オブザーバビリティ(Observability, OB)の定義
オブザーバビリティとは、システムを構成するあらゆるデータを収集し、それらを関連付けて可視化することで、システム内部の挙動を推察可能とする性質のことです。
これは、単なる「監視(Monitoring)」とは異なり、以下の特徴を持ちます。 • 監視(Monitoring)は、事前に定義された項目についてデータを収集し、異常を検出することに焦点を当てる。 • オブザーバビリティは、システム全体のデータを収集し、関連付け、可視化することで、未知の問題の原因特定や予測を可能にする。
オブザーバビリティを実現するためには、以下の主要なテレメトリー(Telemetry)データを活用します。 1. トレース(Trace):システム内のリクエストの流れを追跡する 2. メトリクス(Metrics):CPU使用率やメモリ使用量などの定量データを提供 3. ログ(Logs):イベントやエラーメッセージなどの記録
オブザーバビリティを満たしていないアーキテクチャ
オブザーバビリティを十分に満たしていないアーキテクチャには、以下の特徴があります。 1. 従来の監視ベースのシステム • 監視対象が事前に決められており、想定外の問題に対応できない。 • データが個別に管理され、関連性を持たないため、問題の根本原因分析が困難。 2. 分散アーキテクチャにおける観測性の欠如 • マイクロサービスやクラウドネイティブなシステムで、サービス間の通信ログが取得できない。 • サービス間の遅延や障害の発生場所を特定する手段がない。 3. データの断片化 • メトリクス、トレース、ログが統合されておらず、それぞれ別々のツールで管理されている。 • 結果として、相関分析が困難で、問題解決に時間がかかる。 4. 手動によるデータ分析 • 問題の発生時に、人が手動でログを解析する必要があり、時間がかかる。 • 自動収集・自動解析の仕組みが整備されていない。 5. リアルタイム性の欠如 • 問題発生後のデータ取得や分析が遅れ、リアルタイムでの障害検出や対処ができない。 • 事後分析は可能だが、事前の異常検知や予防には対応できない。
オブザーバビリティを満たしているチェックリスト
以下の項目を満たしているかをチェックすることで、オブザーバビリティを確保できます。
- データ収集
☑ システムのすべてのコンポーネント(アプリケーション、ネットワーク、インフラ)のデータを収集しているか ☑ メトリクス(CPU, メモリ, ネットワーク等)、トレース、ログを取得しているか ☑ 収集したデータを一元管理できるプラットフォームがあるか ☑ 監視対象を事前に決めるのではなく、全データを収集できる設計になっているか
- データの関連付け
☑ メトリクス・トレース・ログを相互に関連付ける仕組みがあるか ☑ リクエスト単位のトレースが可能であり、サービス間の通信やデータの流れを可視化できるか ☑ 異常発生時に、どのリクエストが影響を受けたかを特定できるか
- 可視化と分析
☑ リアルタイムのダッシュボードでシステムの挙動を確認できるか ☑ メトリクスやログが視覚的に表現され、直感的に分析できるか ☑ アラート機能があり、異常検知がリアルタイムで行われるか
- 自動化と運用
☑ 異常時の自動対応(Self-healing)が可能な仕組みがあるか ☑ インシデント発生時に自動で関連情報が収集され、分析可能になっているか ☑ 問題対応時の履歴が記録され、ポストモーテム(事後分析)が可能になっているか
- ツールの活用
☑ 分散トレーシングを自動取得可能なツール(Instana, Jaeger, Zipkinなど)を利用しているか ☑ リアルタイム監視が可能なプラットフォーム(Prometheus, Grafana, Datadog, New Relicなど)を導入しているか ☑ ログ管理プラットフォーム(Elasticsearch, Fluentd, Kibana (EFK) や Splunk)が統合されているか
結論
オブザーバビリティは、システムの透明性を高め、迅速なトラブルシューティングや障害予防を可能にする重要な要素です。 特に、クラウドネイティブ環境では、従来の監視手法だけでは運用管理が困難になるため、オブザーバビリティの導入が必須となります。
このチェックリストをもとに、オブザーバビリティの成熟度を評価し、適切な改善を行うことが推奨されます。